今年の夏は、いつもの夏と比べて夏らしさに欠けている。机に向かうぼくはそんな事を考えていた。

去年の夏ごろは確か、オープンキャンパスでバカみたいに暑い中歩き回ったり、割と遠い所まで出かけたり、初の夏期講習でそれなりに夏らしかった気がする。

ああ、男友達と花火も見た。そんなこともあった。

それに比べて今年は、気がついたら過ぎ去ってしまっていた感じがする。

様々な理由によって今年の前半の大半を憂鬱な気分で過ごしたというのもあるが、思い出せる事が実に少ない。

ふと、気付くと外から花火の音が聞こえてきた。これは夏らしくないと思ってしまった自分への当て付けなのか。

花火ということで、少しはこの家の前からも見えるものなのだろうかと部屋を出ようとする。

誰も居ない家はぼくの部屋以外は暗闇に包まれていた。当然のようにリビングは真っ暗だった。

すると、リビングでは色々な音が聞こえてくる事に気付いた。ぼくは少し目を閉じる。

目を閉じた先に、色彩は無い。でも、色んな音楽が浮かんできた。

花火の振動に呼応して起こる何かが擦れてキュッと鳴る音、スズムシの鳴き声、主張を続ける花火の音、花火大会の喧噪、近所の子供の喜ぶ声。真っ暗闇の音楽会だ。

ぼくが何も「見て」いなかっただけで、今年の夏も実に夏らしい夏なのではないかと、花火に教えられた気がする。

でも、結局最後まで花火を見ることはなかったな。